その展望スペースから左には桜島を、右には知林ヶ島を見ることができ、ここで休憩している県内外の車をよく見ることがある。
今から、数年前、薩摩今和泉の港で、ミズイカが爆釣しているという情報が入り、夜中、鹿児島市内から車を走らせて、薩摩今和泉の港に向かった時のことだった。前之浜駅を過ぎた頃、急に眠くなり、この駐車スペースに吸い込まれるように入った。海岸線は夜光虫で青白く輝き、波音さえしない静けさだった。ここで仮眠をしようと思い、ふと、展望スペースに目をやると、ぼんやりと人の姿が見える。周囲に車も無く、近くの住民の方かな?と思い、そのまま寝込んでしまった。それから数分、車の窓をノックする音で目が覚めた。『警察ですけど…』という声に起き上がり、車の窓を開けた。
『どうかされました?』
『魚釣りに行く途中で、急に眠くなったので…』
『免許、拝見できますか』
『どうぞ』
『何か、あったんですか?』
『ここで、以前、焼身自殺があったので…』
『場所はどこですか?』
『あの展望スペースの近くです』
『・・・』
その後、薩摩今和泉の港まで車を走らせて、エギングを楽しんで、帰りに再び、この駐車スペースに入り、暗くて見えなかった展望スペースの近くを見ると、階段付近に焼けた跡が残っていた。それが人の姿に見え、背中を冷たいものが流れた。
『昨夜、見た人の姿は、この焼身自殺した人の姿…』と思った瞬間、急発進で車を走らせている自分の姿があった。
それから数年、ここを通るたび、どうしても、無意識に展望スペースに目が行ってしまう。しかし、その焼け跡は日増しに薄れていって、今では見ることはできない。自然に風化されて消えたのか、この焼身自殺した方が成仏して消えたのか、私には分からないが、ここを通るたび、心の中で手を合わせている。