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Channel: 餌木作人の戯言(薩摩烏賊餌木『弾(だん)』の作者)
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基本最後は大惨事「ウルトラQ」みたいなポーランド製鉄道ホラー

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基本最後は大惨事「ウルトラQ」みたいなポーランド製鉄道ホラー

2015年8月9日 10時50分
ライター情報:千野帽子
みなさん! 鉄道は好きですか?
僕? うーん僕はフツー……。
『阪急電車 片道15分の奇跡』の今津線にはよく仕事で乗る。ロケやってたのでしばらく待ってたけど、いつまでたっても戸田恵梨香さん来ないんで帰ったという経験がある。

その程度の僕だが、この鉄道ホラー短篇集はよかった。
ステファン・グラビンスキの『動きの悪魔』(芝田文乃訳、国書刊行会)。
ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』(芝田文乃訳、国書刊行会)。2,400円+税。

グラビンスキ(1887-1936)はオーストリア=ハンガリー帝国内ガリツィア(現ウクライナ南西部)に生まれたポーランドの小説家だ。教師をしながら怪奇小説を書いた人らしい。

蒸気機関車時代の鉄道怪奇小説


冒頭の 「音無しの空間(鉄道のバラッド)」では、もと車掌の老保線作業員が、廃線となった線路を、愛着をもってパトロールする。ある日ついに、その彼を迎えに列車がやってくる──。高橋葉介の絵柄が似合う郷愁にあふれた民話的な幻想譚だ。

しかしこれ以降の短篇は、大戦間ヨーロッパの国際社会を背景としたモダンな世界観に、心霊科学や黎明期の遺伝学といった当時の科学(いまから見れば疑似科学)をぶちこみ、サスペンス的な筋立てで怪奇幻想小説にしたものが続く。
しかも、全部鉄道が舞台なのだ。

基本、最後は大惨事


衝突事故の直前に発せられる不思議な警報には、ある規則があった──駅長がそれに気づき謎を追う「偽りの警報」はミステリ仕立てでクールな作品。
 「永遠の乗客(ユーモレスク)」は、モダン都市文学らしいハイスピードな展開と乾いた笑いが特徴。100年前にもエキセントリックな鉄道愛好家はいたんだなー。
 「放浪列車(鉄道の伝説)」では、いきなり現れては大惨事を引き起こす幽霊船ならぬ幽霊列車が大暴れする。

どの作品も不条理で、その多くで人々は惨事に巻き込まれる。
スプラッタなエンディングのものもある。偏執的な思い込みの強い人物もよく登場する。
ここでは鉄道が、人智を超えた不可視の異世界、異次元への扉となっている。

ポーランドの『ウルトラQ』?


帯には
〈「ポーランドのポー」「ポーランドのラヴクラフト」の異名をとる〉
とある。たしかに「異世界への扉をついあけてしまった」感じは、ラヴクラフト(1890-1937)と共通する。
本書「訳者あとがき」に掲載されたラヴクラフトとグラビンスキの肖像写真。ステレオグラムのようだ。

けど、ラヴクラフトのような泥臭さはさほどない。突き放した作風はときにドライで、ユーモラスでさえある。

どちらかというと昭和初期の《新青年》系の奇想小説、あるいは『ウルトラQ』のシュールな最終話「あけてくれ!」(飛行列車が登場する)につうじる、モダンな猟奇趣味を感じる。

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